幻冬舎 (2004/08)
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やはり麻耶雄嵩は期待を裏切らない
十年前の叙述トリックと同じ
不完全燃焼!
漸く「読んだよ」カテゴリに書く時が。
読書好きさんの「螢」麻耶雄嵩の記事に Trackback です。
麻耶好きとしては反応してみたくなりましたので反応します。基本的にネタばれですので、未読の方はご注意を。それと既読者前提ですので梗概は省略。
読書好きさんは「
ホントだったら、何とか館から逃げ出して助けを呼びに行く
だろう。なのに呑気に料理なんか作って酒盛りまでしてる!?」「部屋の奥に鍾乳洞があるなんて!ありえねー!」ということで「虚構の世界にばかりに引きこもってはダメ。良質なミステリーに「リアリティ、現代感覚、社会性」は不可欠。」ということで否定的。採点は三ツ星ということで及第点といったところらしいです。
積読野郎の私ですが、麻耶は好きなので『螢』は購入と同時に読み始め早めに読了。既存の麻耶作品からしてみればこの作品はライトに書かれていると言えるでしょう。『夏冬』『鴉』のような深読みしないとなんだかさっぱり分からないぞ、というようなことが少ないので。また、お得意のそれまで構築してきた物語世界を最後に壊すというのはやってのけています。崩壊感は『翼ある闇』『夏冬』『鴉』などの方が上だと思いますが。
主な仕掛けとしては登場人物たちへの性別誤認、視点人物の誤認となり要は叙述トリックです。すれている読者なら視点人物の五人は早々に見抜けるものですが、千鶴と諫早の2人だけの会話のシーンが出てくると「あれ? はずれた?」とか思ってしまったりもします。見抜けてないのか、と読者を悩ませるわけです。197ページの最終行は実にうまいですね。性別誤認はもうこれは当分誰も使えないだろうというネタ。登場人物たちは千鶴の本当の性を知らず、読者たちは既知というのは珍しいと思われます。この仕掛けの方がメインになってしまい、肝心の殺人事件の方は尻つぼみな印象もありますが。
ここで読書好きさんが結びの言葉に使っている「リアリティ、現代感覚、社会性」について言及しましょう。部屋の奥に鍾乳洞というのは流石にリアリティはないかもしれません。しかし、リアリティとはなんでしょう。現代感覚とはなんでしょう。社会性とはなんでしょう。おそらく本の外の世界、現実世界のことと思われます。現実世界の事件で「ありえねー」と思わない事件は起こっていないでしょうか。起こっています。近いところでは奈良女児誘拐殺害事件、長崎小六女子児童殺害事件、愛知県イトーヨーカドー幼児殺害事件などは「ありえる」感覚なのでしょうか。これを「ありえる」と思えるなら麻耶作品の「ありえなさ」もリアリティを伴って「ありえる」とならないでしょうか。倫理というか道徳というか理性というか、そういったものの基準があやふやになりつつある(なっている?)現実世界においては殺人事件が起きた館の中で酒盛りというのも「ありえる」のではないでしょうか。かつて特異であったものが特異でなくなっていおり、ミステリで言えば荒唐無稽として描かれた事件が荒唐無稽でなくなっていると言えるでしょう。
笠井の大量死を借りれば、近代戦争という「大量死」の時代の中で描かれた黄金時代ミステリとは少数の死に対してそれぞれの死に特権性を与えるため、死に意味づけを行うために探偵は事件解決のため推理をしました。名もなき死者へ名前を与えるという行為。現代では戦争はあるにせよかつての規模の「大量死」はなくなり、代わりに「大量生」の時代になり、別の形で名前は失われました。生の意味が失効しつつあり、「ありえない」理由での「ありえない」殺人が行われます。これが現実であり、リアリティとなってきているのです。麻耶作品にリアリティは欠落しているのでしょうか(と、『螢』でこれ書くのは厳しいかな)。
とまぁ、珍しく真面目に記事書いてみました。ああ、知恵熱が。『螢』に懲りずに麻耶の他の作品も読んでもらえれば嬉しいな、と思います。「凡庸」でない仕掛けの作品もありますので。
# 『螢』での一番の謎は「誰が生存者なのか」で、これはリドルストーリー的な楽しみ方をするべきものでしょう。誰か推理してないかな。
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「螢」 麻耶雄嵩
著者: 麻耶 雄嵩タイトル: 螢第5回本格ミステリ大賞候補作の一作。「このミステリーがすごい 2005」 第11位。「2005年本格ミステリ・ベスト10」 第3位。積読野郎ぜ!!さん、It’自動逧…
Said by 本格ミステリの深淵 April 15, 2005 at about 16:50